日浅(母)
竣工から5年以上が経過しましたが、今でも外観が美しく、大変気に入っています。最近になっても外から時々見上げてしまうほどです。
松岡
ありがとうございます。久しぶりに伺って驚いたのですが、外から見上げると、ほとんどすべての住戸が、建物の外観に合った白か淡いグレーのカーテンを取り付けてくれています。設計コンセプトの一つであった居室とインナーバルコニーの一体感の創出を考えると適切な選択なのですが、建築家の期待以上でした。
建築の外観は、竣工写真を撮った時が成立した時ではなく、住まい手の方々に使い込まれていく中でさらに成長しなくてはならないと常々考えているのですが、なにか住まい手との「無言の対話」が成立したような気がして大変嬉しく思っています。
日浅(母)
都心の真ん中ですから外観はすこし汚れてきましたが、なんだかかえっていい感じになった気がするんです。
松岡
装飾的なものや、色彩ありきなものとは距離を置いて、流行すたりに左右されない、長く風景として成立する建築デザインとは何なのか?が設計の課題の一つでもありました。
建築が他の商品と決定的に違うのは、ライフスパンの長さです。ですから同じぐらいのライフスパンを持つ人間の、例えば顔のように、経年変化とともに魅力が増してくる建築を作りあげたいとの思いで、設計スタディーを重ねました。採用した細やかな凹凸のあるボーダータイルも効いていますね。
メンテナンス費用といった事業的な側面においても、この方向性は確実にメリットになります。
日浅(母)
シストゥールに住まい始めてから、街にある他の建築物を比較してよく見るようになりました。
計画段階で提案をいただいているときは、図面はもちろん、模型やスケッチで何度もご説明を頂いたので、話やイメージとしては理解できたのですが、いまひとつ実感できない時もありました。
でも住まい続けて初めて、設計がいかに考えられているかがよくわかりました。
松岡
ありがとうございます。
外観からは9・10階のバルコニーをメインに2~8階の賃貸住居のインナーバルコニーで各々に育てている植栽もちらほら見えますね。
先ほどお話した居室とバルコニーの一体感が、住まい手にバルコニーに植栽を置くことを促し、その結果として建築の外観を彩っています。
日浅(娘)
9・10階のバルコニーで育てた植栽の発育がとても良くって、来られたお客さまによくもらわれていくんですよ。
松岡
お客様との思わぬコミュニケーションが成立するなんて、嬉しいことですね。
シストゥールの住まい心地はいかがですか?
日浅(娘)
前は普通のマンションに住んでいたのが、そのころの生活がウソだったみたいに、なにもかもが快適です。
シストゥールに住み始めてからは、とにかく友人がよく遊びに来たがるようになりました。室内の心地よさのおかげはもちろんですが、私はあまりお酒は飲まないのですが、友人がバルコニーでワインを飲み始めたりと、思わぬかたちで楽しんでくれています。帰りたがらないときがあるぐらいです。(笑)
そして、初めて来た友人にはよく、地上からはこんな素敵な場所があるなんて想像もしなかったってよく言われるんですよ。でも逆にここを一度でも訪れた友人は、もう自分の部屋に私を入れてくれなくなりました。(笑)
あと、外に出かけてもしばらくすると、もうここに帰ってきたくなるんですよね。
松岡
9階は美容スペースとしてゲストをお迎えしていますが、いかがですか?
日浅(娘)
10階と同じなんですが、とにかくゲストが帰りたがらないんです。ゲストが他の方を紹介してくれないのが課題です。
美容の業界では常識なのですが、ゲストが自分の気に入ったスペースや美容スキルを見つけた場合って意外と他人に紹介したがらないんですよ。
その代わり、一度来ていただいたゲストはもう他のスペースへの浮気がありません。
松岡
自分を飾る場でもありますから、ある意味とてもプライベートな場ですよね。だからでしょうか?
日浅(娘)
スペースがとっておきなのもあると思いますよ。
長く居続けたい場所って、いろいろと話し込んだりしますから、どうしてもプライベートな面も出てくるものです。
松岡
それは迎える側のお人柄が大きいように思います。それにしても、続けてずっと来てくださるのはいいことですね。
お話いただいた、9・10階のスペースの快適性は、外部への高い開放性に因るものと考えていますが、実現するためには設計段階で細心の注意を払いました。
計画段階でペアガラスと断熱サッシの採用を強くお願いしたのに加え、エアコンはそのスペックが広さで決まるのですが、ワンランク上の製品の採用をお願いしました。
さらに10階に関しては、最上階ということもあり、コンクリート製のフラットな屋根に加えて通常使用される断熱材・硬質ウレタンフォーム厚さ30㎜とは別に、天井裏にグラスウール厚さ100㎜を施工しました。
エアコンや断熱材のランクを上げておくことって、快適さの確保に加えて省エネルギーの意味においても費用対効果が非常に高いと考えています。
9・10階のバルコニーに関しては、下階と同様にSRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)としてしまうと、階全体を地震力(地震時に建物に加わる水平力)に対抗させるためバルコニーが柱と梁に囲まれてしまい、バルコニーや室内からの景観、そして外観を損ねてしまいます。ですからバルコニーがあるエリアだけS造(鉄骨造)とすることで、軽量化しつつも地震力にも対抗できる構造システムを構造デザイナーと考案しました。
実はここが、設計の山場だったんですよ。
日浅(母)
事業計画では、空室が少し出るものと想定して算定されています。
ところが空室が出てもシストゥールすぐ決まってしまうので、当初の事業計画よりも収支がだいぶプラスになっているんですよ。
でも、周りの同じぐらいの広さの集合住宅を眺めてみると、結構空室が多いものがあったりしますよね。
松岡
いまでも日本の集合住宅の多くは、広告の歌い文句は派手ですが、まだまだ「住まい手」の都合ではなく「作り手」の都合で作られています。ですが、そういった集合住宅がいま急速に競争力を失い始めていますね。
この界隈は福岡市内でも人気が高い場所なのですが。でもシストゥールは入居待ちの予約済みの方々がかなりいらっしゃいます。
勤めていたころは集合住宅の設計には何度も携わったのですが、独立してからは初めて、設計から監理まですべてを担当させてもらえる集合住宅だったこともあり、建築デザインはもちろん、事業計画としても、決められた予算の中でもしっかり期待に応えたいと考えていました。
ただ、オーナー側からすると、若い建築家にすべてを委ねるのはいろいろとご不安もあったのではないかと考えています。
ですから今でも感謝にたえません。
今日いただけたお言葉を励みに、これからも邁進していきたいと考えています。
本日はお忙しい中お時間をいただき、ありがとうございました。

□鉄骨建て方

□配筋工事

□配筋検査

□コンクリート打設工事

□9階SRC造とS造の構成

□外観頂部(インタビュー時)

□9階内観1(インタビュー時)

□9階内観2(インタビュー時)

□9階内観3(インタビュー時)